皇帝ナポレオン

皇帝ナポレオン〈上〉 (角川文庫)皇帝ナポレオン〈下〉 (角川文庫)
注意:この日記には小説の内容を書いた部分があります。
藤本ひとみの「皇帝ナポレオン」(上下巻)を読み終わった。
この本、実は昨年末に買っていたのだが、分厚い文庫本で、しかも上下巻の2冊という長編であるため、なかなか読み出す気持ちになれず、つい最近になってようやく読んだ次第である。
小説は、ナポレオンが幽閉されていたエルバ島を脱出したところから始まる。それを機にモンデールという新聞記者が昔ナポレオンを知る人物にインタビューしていき、ナポレオンの人物像を探っていく。
その一方でエルバ島を脱出したナポレオンは、途中で多くの兵を従えてパリに近付いて行く。
取材を通して明らかになる昔のナポレオンと、今のナポレオンのパリへの進軍という2つの流れが同時に進み、緊張感を持った展開で話は進んでいく。
モンデールの記事は徐々にナポレオンを非難する方向に傾いていき、ナポレオンがパリに入って政権を取った時には、とうとう地下に潜って告発文を書くようになる。
ナポレオンはモンデールの存在を知り、逮捕命令を出すところで上巻は終わる。
「さてこれから面白くなりそうだ」と思って下巻を読み始めたが、そこから先の展開がなかなか進まず、モンデールの告発文の形でナポレオンの過去の醜聞や負け戦のロシア戦役などが延々と続く。
これが下巻の半分近くを占めていて、長編小説の中だるみといった所だろうか。この辺りは読むのが少し苦痛だったが、我慢して読み進める。
モンデールが逮捕された後は畳み掛けるように話が展開し、ワーテルローの戦いでクライマックスを迎える。
このワーテルローの章で作者の筆は冴え渡り、ナポレオンの言動や表情、混乱を極めた戦闘の展開などが生々しく描写される。まるで自分がフランス軍の陣地にいるかのような気分になって時間を忘れて読み進んでいた。
そして終章を読み終えると、長い物語が終わった後の、軽い虚脱を伴う読後感に浸ることが出来た。
総じて言えば、退屈を感じたところは少し斜め読みをして、下巻の後半は集中して読めば最大限に楽しめるのではないだろうか。